人にはそれぞれ、人生の中で勇気づけられた言葉や、支えになった言葉、あるいは嬉しかった言葉などがあります。2月号の特集では旭川で活躍する20名の皆様に、これまでの人生の中での「心に残る言葉」を綴って頂きました。「絆」が求められている今こそ、言葉の持つ力を今一度、思い起こしたいものです……。
北海道立旭川美術館 館長
金丸 浩一さん
「可能性に生きる」
私にも人生の節目節目に、時には励まされ時には慰められた言葉があっ
た。ほぼ四十年教育の仕事に携わってきたので、それらの多くは教育にか
かわっている。なかでも「可能性に生きる」は、妻同様人生の同伴者と言っ
てよい、大切な言葉である。
教育大学三年生だった昭和四十二年。同じ学生寮に住む友人から分厚
い一冊の本を借り、むさぶるように読んだ記憶がある。その本のタイトルが
「可能性に生きる」。著者は斎藤喜博。当時全国的に知られた教育者で、
群馬県内の小学校長をされていた。
本には、子供たちの無限の可能性を信じ、その意欲や能力を引き出し伸
ばしていく教師たちの授業の様子が、具体的に、生き生きと描かれていた。
子供たちと教師たちとの、まさに格闘の記録だった。子供の、教師自身の
可能性に挑む教育はすばらしい。そう思った。
俺は教師になる。優れた教師になる。
教育大学生には当たり前だった教師への道が、憧れの、希望の、決意の道に変わった。
「志を立てれば、事はもはや半ば達せられたと言ってよい」(松下幸之助)と言うが、「可能性に生きる」との出会いが私の立志である。
ついに優れた教師にはなれなかったが、天職と信じて精進できたこの道に感謝している。